あの頃の“不適切な貴”へ
2025年11月21日、後楽園ホール。Yoshiki InamuraがGHCヘビー級王座の防衛に成功し、挑戦者に名乗りを上げたOZAWAが、まさかのバックハグでフレンドリーに挑戦表明。
会場がざわつく中、それより少し前――もう一つの火種がNOAHのリングに生まれていた。
KENTAが、かつての盟友であり先輩である杉浦貴へ、静かに、しかし強くシングルマッチを迫っていたのである。
ヒールターン後の杉浦は、かつての剛腕ストライカーとしての真っ向勝負もできる一方で、近年はあえて“悪”に振り切ったダーティファイトを全開に。
チェアマン・マサ北宮と共にGHCタッグ王座を奪い返す姿には、ベテランだからこそ染みる計算の悪辣さと狂気があった。
しかし、その姿は長年杉浦を知るKENTAには、どこか見ていられなかったのかもしれない。
【NOAH】北宮&杉浦が2週間でGHCタッグ奪回 KENTAが杉浦に25周年対決提案「タカシの笑顔を取り戻す」…仙台大会詳報中https://t.co/P7ZoAG45io#noah_ghc pic.twitter.com/5i397eDdod
— プロレス/格闘技DX編集部 (@PKDX) November 21, 2025
思い返せば、KENTAと杉浦はNOAH黄金期を支えた者同士。
2000年代、スピードと殺気を武器にジュニアから頭角を現したKENTAに対し、杉浦はアマレス仕込みのパワーと身体能力で急成長。
若き日、二人は同じ団体にありながら、時に競い合い、時に支え合い、三沢光晴の遺したリングを守る同志だった。
だが杉浦には、一時期“東スポ不適切発言キャラ”として話題をさらい、ある意味で常軌を逸した言動でファンを騒がせた時期もある。
その“あの頃の不適切な貴”に、KENTAは試合で真正面から向き合いたいのではないか――そんな匂いすら漂う。
一方で、KENTA自身もWWEから新日本プロレスに渡り、BULLET CLUBを通じて、ただのバチバチファイターでは終わらない“喋り・策士・間”のすべてを身につけた。
令和のKENTAは、技術だけでなく、言葉と心理戦を武器に戦う完成度の高いレスラーへ進化している。
そのKENTAがNOAHに帰還し、GHCヘビー戴冠も果たしたが―Yoshiki Inamuraに引きずり落とされる形で敗北。
悔しさを胸に秘めながらも、次に選んだターゲットが杉浦貴だった。
そしてついに、二人のシングルは12月23日に決定した。
KENTAは「あの頃の杉浦貴を呼び戻したかった」のだろう。
真っ向から向き合い、互いの歴史と絆と決別をリングで語るために、このシングルを“認めさせた”し、不適切なファニーなタカシはファンも見たいのだ。
杉浦はここで素顔の自分と向き合い、かつての仲間に対して素直に“I’m sorry”を口にするのか。
それとも、ヒールとしての道をさらに深め、帰ってきたKENTAをも飲み込むのか。
どちらのカラーを選択をするにしても――リング上が、そのすべてを我々に見せてくれるはずだ。
12.23、あの頃の二人が積み重ねた歴史が、一つの答えとなって爆ぜる。ファンが待っていたのは、まさにこの瞬間である。