プロレスの味方として
脚本家・内館牧子さんと聞いて、多くの人がまず思い浮かべるのは、大相撲の横綱審議委員としての姿かもしれない。
凛とした言葉選び、相撲文化への深い理解。そのイメージは確かに強い。
しかし、プロレスファンの間では、また別の顔がよく知られていた、そう、筋金入りのプロレス通である。
かつて『週刊プロレス』で連載を持ち、内館さんはレスラーを一人ずつ、自身の視点で切り取っていった。
技や勝敗だけではなく、リングに立つまでの背景、身体に刻まれた時間、言葉にならない矜持。
読後にはそのレスラーの立ち姿がはっきりと浮かび上がってくる。プロレスを「語る」だけでない、「読む」楽しさも教えてくれた連載だった。
追悼・内館牧子さん 相撲だけでなくプロレスに深い造詣…大好きだった〝血まみれデスマッチ〟 |東スポWEBhttps://t.co/IUT2054vu5
— 東スポ プロレス格闘技担当 (@tospo_battle) January 24, 2026
記憶に残っているのは、確か佐藤正行編集長が誌面に登場し、その流れで始まった企画だったはずだ。
初回で取り上げられたのは、始まりは全日本プロレスだった大森隆男ではなかっただろうか。
派手さよりも、不器用さや真面目さが先に立つレスラーであり、その生き様を、内館さんは決して持ち上げすぎず、しかし深い敬意をもって描いていた。
その距離感こそが、内館牧子という書き手の真骨頂だった。
他にも武藤敬司や大好きだった三沢光晴、おそらく若手だった中嶋勝彦も出ていたのではなかろうか。
内館さんは脚本家として、数多くの名作ドラマを世に送り出してきた。
たとえば民放ドラマ『想い出に変わるまで』や大河ドラマ『毛利元就』、そして朝の連続テレビ小説『ひらり』『私の青空』などが思い浮かぶ。
人間の弱さや滑稽さ、そして再生を描く作品群は、時代を越えて支持されてきた。
特別なヒーローではなく、どこにでもいそうな人間が葛藤し、立ち上がる。
その視線は、プロレスのリングを見つめる目とも確かに重なっていた。
生業だった脚本家、造詣深く、何より好きだった相撲、そしてプロレス。
内館牧子さんが向けてきたまなざしは、常に「生き様」だったのだと思う。
勝つか負けるか、その奥にある人間の物語を、誰よりも信じ、言葉にしてきた脚本家だった。
ご冥福をお祈りいたします。