最高のスパイダーマン集結
『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』(2021)は、これまでのマーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)の流れの中でも、ひときわ異彩を放つ作品である。
スパイダーマンというキャラクターは、長年にわたり幾度も映画化されてきたが、本作はその“全て”を一つに束ねる、奇跡のような試みを見事にやり遂げている。
筆者は本作を事前情報をあまり入れずに鑑賞したが、正直、驚きと感動の連続だった。星5を上限とする採点システムがあるならば、その枠すら超えてしまうような傑作であると断言したい。
歴代スパイダーマンの“夢の共演”
本作最大の特徴は、歴代のスパイダーマンたちが同じスクリーンに登場するという、まさに夢のクロスオーバーである。
2002年のサム・ライミ版スパイダーマン(三部作)でトビー・マグワイアが演じたピーター・パーカー、2012年の『アメイジング・スパイダーマン』シリーズでアンドリュー・ガーフィールドが演じたピーター、そして現在のMCU版スパイダーマンであるトム・ホランド演じるピーター・パーカーが一堂に会する。
それはまるで、時代と次元を超えた“スパイダーマン・サミット”のようだ。
この展開は、いわゆる「マルチバース」という設定によって成立している。
マルチバース(多元宇宙)とは、ひとつの世界(宇宙)だけでなく、無数に存在する平行世界が同時に存在するという概念だ。
もともとは物理学やSFの世界で語られる理論だが、近年のアメコミ映画では頻繁に用いられている。
MCUにおいても、『ドクター・ストレンジ』や『ロキ』などで少しずつ布石が打たれてきたが、ここに来てその真価が存分に発揮された。
「スパイダーマン/ノーウェイホーム」観た!
— いち (@1xichix1) May 26, 2025
(※画像は #マーベルライバルズ )
後半めっちゃ熱かった!3人揃うともうワァ!!て胸熱になる!2代目がMJ助けた時の気持ちがわかって切なくなった…
最終的に良い感じでまとまって終わってはいるけど、納得出来ない人いっぱい居そう…というか続きそう🤔 pic.twitter.com/zSmYjlvYvD
マルチバースによって、異なる映画シリーズに属していたスパイダーマンたちが、同一画面上に登場するという大胆な展開が可能となった。
これは単なるファンサービスではない。過去作への深い敬意と、それぞれのピーター・パーカーが背負ってきた「喪失」と「贖罪」の物語が丁寧に再構築されているのだ。
物語の深度とエモーショナルな再会
本作以前のMCU版スパイダーマン、『ホームカミング』や『ファー・フロム・ホーム』は、若々しくポップな学園ドラマの側面が強かった。
面白くはあるものの、過去のスパイダーマン作品にあったような“重み”にはやや欠けていた印象がある。
だが『ノー・ウェイ・ホーム』では一転して、主人公が背負う運命の重さ、人間としての成長、そして大切な人を失う痛みが真正面から描かれる。
序盤こそ高校生らしいトーンがあるものの、中盤以降は歴代ヴィラン(悪役)との緊迫した対峙、そして深い内面描写が続く。
グリーン・ゴブリン(ウィレム・デフォー)、ドクター・オクトパス(アルフレッド・モリーナ)、エレクトロ(ジェイミー・フォックス)など、過去作を彩ったヴィランたちが次々と登場し、それぞれの物語に決着をつけていく姿も見応えがあった。
特に印象的だったのは、三人のスパイダーマンが、互いの傷と喪失を語り合うシーンである。
自分の過ちを悔いながらも、次なる世代にその教訓を伝えようとする姿は、まさに「ヒーローの継承」を体現していた。ここでは、ただのクロスオーバー以上の“魂の継承劇”が展開されているのだ。
ヒーローが払った代償
物語の終盤、トム・ホランド版ピーター・パーカーは、自分の存在を“この世界から忘れ去られる”という選択を下す。誰一人、彼のことを知らない世界。
それは、友人も恋人も、家族すらも失うことを意味する。それでも彼は、世界を守るためにその道を選ぶ。
このエンディングは、ある意味で非常に悲劇的でありながらも、真の意味でヒーローとして覚醒した姿を象徴している。
スパイダーマンとは、本質的には「大いなる力には、大いなる責任が伴う」という哲学を体現する存在だ。その責任を、彼はこれまでで最も過酷な形で引き受けたのだ。
映画館を出る瞬間まで気を抜けない
現代のマーベル映画において、エンドロールの後にも“物語”が続くのはもはやお約束となった。本作でも、最後まで席を立ってはいけない。
途中のポストクレジット・シーンでは、シンビオート(黒い寄生生命体)を示唆する描写が登場する。これは、『ヴェノム』シリーズとの接続を匂わせるもので、次なる展開への期待が高まる。
『スパイダーマン ノーウェイホーム』
— メイは🎥映画に夢中です💘 (@uCDfqZckJDEpDTG) January 24, 2022
マーベル作品は時系列が分からず単品をポツポツ観ていた程度だったけど、TLの好評価が気になって観ることを決意!前作2つとインフィニティ・ウォー、エンドゲームを前もって鑑賞。噂どおりめっちゃ楽しめた。感動!これを機にマーベル作品全部制覇したい。 pic.twitter.com/U6whMOT4kF
また、ラストには『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』へと直結する映像も挿入されており、MCU全体の広がりを感じさせる構成となっている。
“掟破り”のカタルシス
過去作品のスパイダーマンを観ていた観客にとっては、感動も二重、三重に広がる。単に“再登場”ではなく、それぞれの物語の“続き”が、この映画で描かれているのだ。
それぞれのピーターが再びスーツを着る理由、その苦悩と決意を知っているからこそ、本作での行動一つ一つが心に響く。
『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』は、マルチバースという大胆な設定を活かしながら、ヒーロー映画の枠を超えた深みと普遍性を持った物語を描ききった。
その成功は、決して偶然ではなく、長年にわたる積み重ねと、クリエイターたちの誠意の賜物である。
この作品を観終えたとき、観客は必ずもう一度、過去のスパイダーマンたちに会いたくなる。
そして、また新たな物語の始まりを予感せずにはいられない――それこそが、真に「掟破り」な傑作の証明と思うのだ。