日焼けしたこけし
人は炎を恐れる。
だが、真に強き者とは、何度その身が灰になろうとも、自らの翼で再び立ち上がる者のことを言うのかもしれない。
本間朋晃という男は、まさにそんなレスラーだった。
来年での現役引退を発表した本間朋晃。その理由は、完全には回復しない頸椎の状態だという。あれほど大きな怪我を経験した以上、無理を続けるべきではない。
それは誰よりも本人が理解しているはずだ。
だが、本間朋晃という男の物語は、新日本プロレスだけでは語り尽くせない。
山形で産声を上げた青年は、決して順風満帆な道を歩いてきたわけではない。
インディー団体で泥だらけになり、どれだけ倒されても立ち上がり、全国各地を転戦しながら己というレスラーを磨き続けた。華やかなスポットライトとは無縁の日々。
それでもリングに立つ理由は一つしかなかった。
「プロレスが好きだからだ。」
その信念だけを胸に歩み続けた男だった。
そして新日本プロレスへ辿り着く。しかし、そこにも安住の地など存在しない。スター選手がひしめくリングで、本間は決して恵まれた立場ではなかった。
それでも腐らず、与えられた一試合、一試合を命懸けで戦い続けた。
気が付けば、黄色いタイツにこんがり焼けた肌、そして誰にも真似できないしゃがれ声は、本間朋晃という唯一無二のブランドになっていた。
リング上では一直線。
豪快なラリアットでも、技巧派の関節技でもない。
頭から飛び込む「こけし」。
普通なら無謀と言われるその一撃を、観客は固唾をのんで見守り、そして決まれば大歓声を上げた。
何度空振りしてもいい。
何度倒されてもいい。
最後に立ち上がれば、それが本間朋晃だった。
真壁刀義とのタッグで結果を残し、タッグリーグ連覇という栄光も掴んだ。
遅咲きではあったが、多くのファンから愛されたのは、決して強さだけではない。
不器用で、泥臭く、それでも絶対に諦めない姿が、人の心を打ったからだ。
しかし運命は残酷だった。
首の大怪我。
リングへ戻ってきたこと自体が奇跡と言われるほどの重傷だった。
それでも再びリングへ帰還した姿は、多くのレスラーやファンに勇気を与えた。
近年はNEW JAPAN CUPやG1 CLIMAXへの出場を口にすることはあっても、その願いが叶うことはなかった。
会社としても、一度命に関わる怪我を負った選手を慎重に扱うのは当然だったのだろう。
それでも本間はリングサイドに立ち続けた。
試合数では測れない存在感。
そこに本間朋晃というレスラーの価値があった。
今年から来年にかけて、新日本プロレスは大きな時代の節目を迎えている。
棚橋弘至の引退試合に始まり、4代目タイガーマスク、天山広吉、そして本間朋晃。
一つの時代を支えたベテランたちが次々とリングを去っていく。
寂しくないと言えば嘘になる。
しかし、世代交代なくして未来はない。
新しい世代が羽ばたくためには、偉大な先人が潔く翼を畳む覚悟もまた必要なのだ。
それは決して敗北ではない。
未来へ炎を託す者だけが辿り着ける、誇り高き終着点なのである。
本間は故郷・山形県での引退試合を希望しているという。
長年応援してくれた地元のファンへ、最後の恩返しをしたいという思いなのだろう。
ならば、その舞台で見せてほしい。
勝敗など、もはや関係ない。
しゃがれ声で叫び、黄色いタイツを揺らし、全身全霊で放つ最後の「コケシ」。
何度倒れても立ち上がり、不死鳥のように飛び続けた男の最後の一撃は、きっと観る者すべての心に深く刻まれるのだろう。
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