日産再建への可能性
日産自動車は2025年3月期の決算で、最終赤字7500億円という衝撃的な数字を発表した。
世界的な物価高、原材料費の上昇、そして米国市場における相互関税引き上げが重なり、企業体力を大きく削った結果である。電動化の波に乗り遅れたことや、経営体制の混乱も響いた。
今、日産は自動車産業の激しい構造変化の中で、自らの立ち位置を見失いかけている。
注目されたのは、ホンダとの提携協議を最終的に見送った判断である。ホンダは、次世代電動車開発や部品共通化において、他社と積極的に連携する姿勢を見せている。
もし日産がこの流れに乗っていれば、開発コストの分散やサプライチェーン強化の観点で得るものも大きかったはずだ。だが、日産は「独自技術の強化」を優先し、提携に踏み切らなかった。
この判断には、過去のルノー・カルロス・ゴーン体制下での「過度な依存」への反発もあったとみられる。
しかし、いま必要なのは孤高の道ではなく、戦略的な共存共栄である。
日産自動車が2025年3月期の連結決算で7500億円もの巨額最終赤字になる見通しだ。昨年末から経営統合交渉をしていたホンダと破談したが、もはや日産単独で生き残るのは至難の状況だ。https://t.co/wn8cfNygrE…
— 月刊文藝春秋(文藝春秋PLUS) (@gekkan_bunshun) May 7, 2025
では、日産が復活するためには、今後どのような経営方針を採るべきなのか。まず第一に求められるのは「選択と集中」である。
全方位戦略から脱却し、収益性の高い市場や車種に経営資源を集中する必要がある。たとえば、北米市場では日産ブランドのSUVや電動ピックアップの需要が根強い。
この分野に開発・販売のリソースを投下し、ブランドの再構築を図るべきだ。
第二に、EV(電気自動車)戦略の抜本的な見直しが必要だ。かつて「リーフ」で先行していたにもかかわらず、現在のEV競争では中国勢やテスラ、欧州勢に大きく水をあけられている。
ハード面だけでなく、ソフトウェアや充電インフラを含めた「モビリティ・エコシステム」の構築が急務だ。単なる車両の提供ではなく、ユーザーとの継続的な関係性(カスタマー・リテンション)を重視する方向に舵を切るべきである。
第三に、日産再建には「人材と組織の再設計」が欠かせない。長らく海外主導の経営体制だったが、日本本社の主導権を明確にし、技術者と現場の声が経営に反映される仕組みを整えることが必要だ。
短期的なコストカットよりも、中長期的な競争力を生む人材育成や企業文化の再構築に注力すべきだろう。
財務面では、資産売却や遊休工場の整理などによってキャッシュフローを安定させると同時に、株主や金融機関との信頼回復も不可欠だ。
再建計画に対して明確なKPI(重要業績評価指標)を設け、進捗を開示していく「透明性のある経営」は、今後の信頼回復の鍵となる。
加えて、カーボンニュートラルやサステナビリティといった社会的要請に応える姿勢も不可欠だ。単なる環境対策ではなく、企業価値そのものとしての「グリーン・トランスフォーメーション(GX)」を明確に打ち出すことで、国内外の投資家や若年層ユーザーの共感を得ることができる。
日産自動車が2025年3月期の連結決算で7500億円もの巨額最終赤字になる見通しだ。昨年末から経営統合交渉をしていたホンダと破談したが、もはや日産単独で生き残るのは至難の状況だ。https://t.co/wn8cfNygrE…
— 月刊文藝春秋(文藝春秋PLUS) (@gekkan_bunshun) May 7, 2025
日産は多くの困難を抱えているが、それでも技術力やグローバルブランドという強みはまだ失われていない。今こそ、過去の成功体験にとらわれず、新たな経営哲学と実行力をもって再生の道を歩むべき時である。
誰もが喜ぶなんて改革なんて無理なんだから、大きな痛みや傷を伴っても一歩を踏み出す勇気はあるのだろうか。