スポーツの利益貢献は限定的
株式会社ブシロードが2025年6月期第3四半期累計(2024年7月~2025年3月)の決算を発表し、連結経常利益は前年同期比4.4倍の28.9億円という大幅な増益となりました。
さらに、通期予想も従来の30億円から41.5億円に上方修正。
これは前期比で2.2倍の増益を見込むもので、非常に力強い業績の伸長が見て取れます。この発表を受けて、翌日の株価もストップ高となり、市場の期待感が一段と高まっています。
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— 木谷高明 (@kidanit) May 15, 2025
ブシロードは、トレーディングカードゲーム(TCG)、音楽ライブ、アニメや漫画原作のコンテンツなど、幅広い事業を展開していますが、中でも特異な存在が「スポーツユニット」に位置づけられるプロレス事業です。
具体的には、「新日本プロレス」と「スターダム」という2つの団体を傘下に収めています。
この両団体は、それぞれ日本のプロレス界における重要なポジションを占めており、新日本プロレスは長い歴史とブランド力を持ち、スターダムは女子プロレスの先駆的な存在として急成長してきました。
なお、新日本プロレスがブシロードの完全子会社となったのは2012年のことで、当時低迷していた団体を買収・再建した点でも経済的観点から注目を集めました。
その後の成長は目覚ましく、ドーム興行の成功やグローバル展開など、他のエンタメ事業とシナジーを持ちながら推進されてきました。
しかし、今回の決算資料には「興行の動員回復に向けて全国での興行と宣伝活動を実施」とある通り、プロレス事業自体の現状は必ずしも楽観視できる状況ではありません。
実際、新日本プロレスにおいては、2025年春に内藤哲也選手が退団。彼は近年の人気・影響力ともに団体の顔とも言える存在であり、その去就は団体にとって大きな損失です。さらに、彼が率いていた最大のユニット「ロス・インゴベルナブレス・デ・ハポン(LIJ)」も解散となり、看板的なコンテンツが失われました。
スターダムに関しても同様に、中野たむ選手の退団や「アイコン」と称される岩谷麻優選手のマリーゴールドへの移籍が重なり、厳しい局面に直面しています。
こうした逆風の中で、プロレスファンの視点からすると、現在の新日本プロレスには選手数が過剰である印象を受けます。古くからのファンでさえも追いきれないほど選手が増えており、新規ファンにとっては誰が誰なのか理解することさえ困難な状況です。
また、試合カードもマンネリ化しており、ビッグマッチやリーグ戦以外の通常興行では、8人タッグ、10人タッグといった多人数形式が頻発している点にも課題があります。
例えば10人タッグマッチでは、試合時間が10分前後で終わることが多く、選手一人あたりの実質的な試合稼働時間はわずか2分程度。これでは選手の個性や魅力を十分に発揮することができません。
ファンとしては、より多くのシングルマッチやタイトルマッチを開催し、会場を盛り上げてほしいという思いが募ります。
プロレスは単なるスポーツではなく「ライブエンターテインメント」です。試合の合間にはトークショーを行うなど、会場での滞在時間を楽しめる工夫があってもよいのではないでしょうか。
実際、プロ野球では試合以外の演出やイベントが充実しており、観客が3時間以上楽しむことも珍しくありません。プロレスも同様に、ファンが長く滞在し、満足度を高められる仕掛けが求められます。
また、経営的な観点からは人件費の最適化も重要です。特に、試合に出場していないベテラン選手や、リング外での活動が少ない中堅選手については、戦力外通告や配置転換も選択肢となるかもしれません。
外国人選手に関しても、数が多すぎると人件費の圧迫要因となり、ファンが覚えきれないという弊害も生じています。
一方で、選手個人の外部活動に目を向ければ、ポジティブな事例もあります。鷹木信悟選手は地元・山梨県での地域活動やラジオ・YouTube配信を通じて存在感を示しており、高橋ヒロム選手も初の単独ファンクラブを設立し、地元・八王子市と連携したPR活動を展開しています。
グレート-O-カーン選手に至っては、アニメやアパレルとのコラボレーションを通じて、多様なファン層にアプローチしています。
こうした個々の取り組みを団体としてもっと活用し、話題性と企業力を結びつけていくことで、ブシロードグループ全体のシナジー効果をさらに高めることが可能です。
特に、「BEST OF THE SUPER Jr.(BOSJ)」や「G1 CLIMAX」「NEW JAPAN CUP(NJC)」といった旗艦大会以外の興行でも、新日本プロレスの凄さをしっかりアピールしていくことが、ファン層拡大と企業収益の両立に繋がります。
株主優待の視点から見ても、プロレス事業の改善余地はあります。ブシロードポイントによる商品交換は有難い制度ですが、人気グッズが常に品切れ状態であったり、送料がかかる点には不満の声もあります。
嬉しいニュースとしては、株主向け有料イベントの抽選制度が拡充されたことで、楽しみにしているファンも多いことでしょう。筆者自身も当選経験があり、会場での一体感を味わうことができました。
さらに欲を言えば、株主限定のスペシャルイベントとして、新日本プロレスとスターダムの合同大会を開催してもらいたいものです。
プロレスのチケット価格は野球やサッカーに比べて高めであり、未経験者が気軽に足を運ぶにはハードルがあります。その点、株主優待としての招待興行であれば、TCGやアニメなど他のブシロードコンテンツのファンが初めてプロレスに触れるきっかけとなる可能性もあります。
新木場、後楽園、立飛、ベルサールといった中規模会場での実施も現実的な選択肢です。株主やファンを巻き込んだ施策こそが、ブシロードの多角的経営戦略を支える強みになるのではないでしょうか。
【6月29日 (日)17時~ 新日本プロレス“最後”の愛知県体育館大会!】
棚橋弘至プロデュース興行
『TANAHASHI JAM~至(いたる)』※ロイヤルシート完売!チケット好評発売中!!
⇒https://t.co/jDIpO4NiFj#TANAJAM pic.twitter.com/TUGwqHakrT— 新日本プロレスリング株式会社 (@njpw1972) May 15, 2025
2026年1月4日には、エース棚橋弘至選手が引退を迎えます。既にオカダ・カズチカ選手、内藤哲也選手という二大スターを失った今、なおも「今」を楽しむことができるかが、新日本プロレスの次なる挑戦です。そしてその挑戦は、結果としてブシロード全体の繁栄に直結するはずです。
プロレスという熱狂と感動の文化を守り育てながら、企業価値の向上を図る——ブシロードがその舵取りをどのように行うのか、今後も”トランキーロ”・・・いや、新日本プロレスでこの決め台詞はもう帰ってくるまで使うべきでないかもしれません。
ならば、もっと!もっと!もっと!覚悟を持って、団体運営と、プロレス業界繁栄のため新日本プロレスが牽引していくのか要注目です!!