英米の要塞基地
第176巻に収録された3本の中でも、冒頭に配置された『顔のない死神』は明らかに主軸だ。
だが、このエピソードに登場する男は、標的としては少々…小物だ。
裏切り者。その一言で済む男だった。
武器商人の組織でNo.2を任されていたが、ある日突然、ボスの金を抱えて逃走し、逃げ込んだのは、英米が共同で管轄する極秘の要塞基地だった。
心身ともに酒に溺れたアル中――だが、それでも彼は一つの本能に突き動かされていた。
そう、“ゴルゴ13”の名を耳にしたときから、男の逃走劇はただの亡命ではなくなったのだ。
「奴が来る……あいつが来る……!」
己の罪を知る者だけが抱える、死の予感、それが死神の足音――ゴルゴ13の影だった。
男は、米英の機関に出頭し、匿われるよう懇願する。
ボスがゴルゴを雇ったと知った瞬間、命の保証が基地にしかないと悟ったのだ。
もちろん、基地側もただでは済まさない、機密情報との引き換えだ。
男は持っていた全てを吐き出し、軍の保護下に入る。
要塞は堅牢であり、複数のチェックポイント、二重三重の警備システム、出入りする者すべてに指紋と網膜認証が課せられる。
その中で、男は「完全ではないにせよ安全な場所」にいると信じ込んでいたが、それこそが命取りだった。
“死神”は、要塞に侵入したが、彼がどうやって要塞に潜入したのか。
どんな手段を用い、どのタイミングで“顔を消した”のかは作中を見てもらえば明らかだ。
⋯事実として「死神」は、要塞内で既に“息を潜めていた”のだ。
銃と言えるような代物でもない中で、静かなる処刑が遂行され、死は、空気のように滑り込み、彼の呼吸を止めた。
影もなく、男の命は奪われたが、ここでどんでん返しが起こった。
そしてゴルゴは、また“存在しなかった者”として姿を消す。
ゴルゴ13に正義や悪というイデオロギーはなく、あるのは任務を受けるか否かだ。
他に収録されている『必殺の0.5秒』『アジ・ダハーカの羽』も重厚な読み応えは変わらない。
必殺の⋯は、いつ以来か分からないほどの、ゴルゴと凄腕スナイパーとのマッチアップであり、息が詰まるほどの攻防だ。
今回のトランプ暗殺未遂
— マジシャンKiLa@超絶技巧チャンネル (@LensukeKiLa) July 14, 2024
ゴルゴ13最新の213巻が予言になってしまってる
この回(夢の国:脚本協力/香川まさひと)では、この狙撃後の対応で支持率を上昇させることになった©️さいとう・プロ pic.twitter.com/L70co1IR9i
そして、ラストエピソードは発展途上国インドの自動車製造の光と闇を思わせる⋯そして、僅か2ページだが、あの武器職人がいい仕事をしている。
いついかなる時であっても、確実に“任務”を遂行し、標的になった者はゴルゴ13からは何人たりとも、逃れられない。