RAW/SMACKDOWN放送の3年間
ABEMAで放送されてきたWWEのRAW、SMACKDOWNが、ついに幕を下ろします。
考えてみれば、これはかなり大きな出来事です。
インターネット環境さえあれば、誰でもWWEの二大ブランドを、しかもフルパッケージで見ることができる。
かつては「そんな時代が来るのだろうか」と思っていたことが、実際に実現したわけです。
WWEファンにとっては、まさに夢のような時間でした。
ところが、その夢にも終わりが来ます。
では、今回のABEMAでの放送終了は、単なる配信サービスの契約変更なのでしょうか。
もちろん、Netflixとの契約など、配信を取り巻く事情もあるでしょう。
ですから、これだけをもって「WWEが日本市場から撤退する」と断定することはできません。
しかし、少し長い目で見てみると、気になる点もあります。
WWEは、決して日本を知らない団体ではありません。
かつてから日本のプロレス界とは深い関係を持ち、日本で活躍した外国人レスラーをWWEが迎え入れることもあれば、日本人レスラーがWWEのリングへ進出することもありました。
そして現在では、中邑真輔、イヨ・スカイ、そしてジュリアなど、日本を代表するレスラーたちがWWEの舞台で存在感を示しています。
さらに、中邑真輔は日本でのNOAHのビッグマッチにも姿を見せました。
Yoshiki InamuraもNXTでの経験を積み、パワーアップしてスマックダディとして日本へ戻ってきました。
つまり、日本とWWEの距離そのものは、決して遠くなっていないのです。
日本公演も開催され、日本人スーパースターも増えている。
それなのに、国内でWWEを日常的に見る環境は、ここで一つの区切りを迎える。
ここに、少し複雑な問題があります。
そもそもWWEと日本のプロレスは、同じ「プロレス」という言葉でくくられていても、その楽しみ方には大きな違いがあります。
日本のプロレスは、リーグ戦やトーナメント、タイトルマッチを中心に、「誰が一番強いのか」「この選手はどこまで成長するのか」という競技的な物語を楽しむ文化が非常に強い。
一方、WWEはプロレスを「スポーツエンターテインメント」として捉え、試合だけではなく、キャラクター、抗争、ストーリー、マイクパフォーマンス、そして長期的な物語そのものを商品にしています。
つまり、同じリングの上で戦っていても、見せようとしているものが少し違う。
言ってみれば、水と油……とまでは言いませんが、少なくとも同じ料理ではありません。
それだけに、WWEが日本で本格的に根付くには、やはり高い壁があります。
日本人選手がWWEで活躍する。
日本公演が開催される。
そして日本のファンがWWEを知る。
これは確実に進んできました。
しかし、「WWEという文化そのものが日本の一般層まで広がったのか」と問われると、話は別です。
WWEユニバースは確実に存在します。
ただし、その裾野が日本のプロレスファン全体、さらにはプロレスを普段見ない人たちにまで広がっているかというと、まだ難しいところでしょう。
これはWWEだけの問題ではありません。
日本のメジャー団体である新日本プロレスでさえ、トップレスラーの名前やストーリーを知っているのは、基本的にはプロレスファンです。
つまり、「プロレスそのものが日本で大ブームになっているわけではない」。
そう考えると、世界最大級のプロレス団体であるWWEであっても、日本市場を一気に開拓するのが簡単ではないことは理解できます。
個人的には、WWEにはもっと日本へ踏み込んでほしかった。
日本のプロレス団体やプロモーションの勢力図を、大きく変えてしまうくらいの存在になってほしかった。
ハウスショーではなく、RAWやSMACKDOWNそのものが日本を含むアジアを巡る。
そして日本大会が単なる「海外公演」ではなく、本編のストーリーに大きく関わる。
さらにPLEまで日本で開催される。
そんな未来を、どこかで期待していたのです。
しかし、今回の放送終了によって、その夢は少し遠くなったように感じます。
特に、日本人レスラーがWWEへ移籍したとき、
「日本で見られなくなるのか……」
ではなく、
「いや、ABEMAがある。WWEに行っても日本で活躍を追える!」
と思えたことは、ABEMA放送の大きな意味だったと思います。
ところが、これからはそう簡単にはいきません。
WWEに日本人選手が加入しても、国内で気軽に追いかけられる環境がなくなれば、ファンからすれば少し寂しい。
極端に言えば、「引き抜かれ損じゃないか!」という話にもなってしまいます。
これから高橋ヒロムが「KYOKI」として活躍するタイミングとなるところでした。
もちろんNetflixという選択肢はあります。
本場の実況でWWEを見ることもできるでしょう。
マイケル・コールやウェイド・バレットらの実況を楽しみながら、本国と同じ環境に近づくこともできる。
ただし、そこまでしてWWEを見るのは、やはりコアなファンが中心になるのではないでしょうか。
そして、もう一つ忘れてはいけないのがABEMAの実況です。
最初から完璧だったわけではありません。
むしろ、「これは大丈夫なのか?」と思ったこともありました。
しかし、中継陣が刷新されてからは、WWEの世界観を壊さず、マイクアピールの最中には必要以上に言葉を挟まず、試合の流れに合わせて実況する。
そんなスタイルが次第に形になっていきました。
日本でWWEを見るための、独自の入り口ができていたのです。
そして個人的には、もう一つ夢がありました。
ABEMAとNOAHのつながりを考えれば、いつかWWEの舞台で古舘伊知郎さんによる、あの伝説的なプロレス実況を聞く日が来るのではないか。
そんな妄想をしていたわけです。
……まあ、妄想です。
しかし、プロレスファンというのは、こういう「いつか」を楽しみにするものでもあります。
ところが、その「いつか」を待っている間に、ABEMAでのWWE放送は終わってしまう。
WWEが日本を完全に諦めたわけではありません。
日本公演もある。
日本人スーパースターもいる。
日本との関係が消えたわけでもない。
ただ、少なくとも「日本でWWEを広げていく」という意味では、一つの大きな転換点になることは間違いないでしょう。
そして、ここから先は、WWEが日本でどのような存在になっていくのかが問われます。
日本人選手を送り出す場所なのか。
日本公演を開催する場所なのか。
それとも、日本のプロレスファンが自ら料金を払って、世界のWWEを見に行く市場なのか。
その答えは、まだ分かりません。
ただ一つ確かなのは、ABEMAによってWWEを身近に感じられた時間が終わるということです。
無料でRAWを見る。
無料でSMACKDOWNを見る。
日本人スーパースターの活躍に一喜一憂する。
そんな日常が、当たり前ではなくなります。
……そして、最後に残るのは、皮肉も含みつつ、この言葉しかないやもしれません。
「You can’t see me!」
見えっこねぇ!!
……いや、本当に見えなくなるんですよ。
今まで、そこにあったWWEが遥か遠くに行ってしまうんです・・・


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