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【ゴルゴ13】137巻 カフカーズの群狼 ”ゴルゴをAIが見破れるのか?”

ゴルゴ13
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紛争は無くならない

さいとう・たかをの『ゴルゴ13』は、世界情勢を背後に置きながら、人間の本質と国際社会の矛盾を撃ち抜いてきた。第137巻には、そんな本作の哲学がより濃密に詰め込まれている。

収録された3つのエピソードは、それぞれが異なるテーマを持ちながらも、共通して「人間の欲望と限界」、そして「ゴルゴ13の不変性」を描いている。

特に表題作「カフカーズの群狼」は、1990年代から2000年代初頭にかけて続いたチェチェン紛争を題材にしており、現代のロシア・ウクライナ戦争に通じるリアルな戦争の泥沼と陰謀が浮き彫りになっている。

 

「カフカーズの群狼」――冷たい仁義の物語

舞台は、コーカサス地方。ロシア連邦に属するチェチェン共和国は、かつてのソ連崩壊後、独立を巡ってロシアと激しい武力衝突を繰り返した。

1994年から1996年の第一次チェチェン紛争、そして1999年に再び火を噴いた第二次紛争。

いずれも市街戦、ゲリラ戦、そして大規模な空爆により、一般市民を巻き込む悲劇が絶えなかった。

このエピソードでは、そんな血で血を洗う戦場に、“プロ”としてゴルゴ13が降り立つ。敵はロシア軍最強の特殊部隊「スペツナズ」。

中でも選りすぐられた「アルファ部隊」が登場する。

彼らは対テロ戦の精鋭であり、実際にモスクワ劇場人質事件などでも名を馳せた過激な実力派集団だ。

彼らと交戦するだけでも熾烈だが、ストーリーはそこで終わらない。依頼者の背後には、チェチェンゲリラとロシア軍双方の思惑が絡み合い、裏切りと忠義が交差する。

裏切られたゴルゴが冷徹に報復する様は、もはやお約束と言えるが、その中に「裏切る者の覚悟」や「義を通そうとした意地」も描かれ、人間の複雑な情感を浮かび上がらせる。

このエピソードは、ただのアクションではない。ゴルゴ13の異常とも言えるフィジカル、サバイバル技術、そして揺るがぬ判断力は、混迷の中にこそ真価を発揮する。

戦争は国家と国家のゲームだが、その舞台裏で消される命や正義とは何か――本作はそれを突きつけてくる。

そして、2025年の今だからこそ、この作品が持つ「戦争の無限性」は深く響く。ロシアとウクライナの戦争が続く今、「あの時のチェチェンと何が違うのか?」という問いを読者に投げかけてくるのだ。

「生存確率0.13%」――AIと人間の限界

2話目は、ガラリと舞台を変え、近未来的なサスペンスへ。

タイトルの「生存確率0.13%」とは、ゴルゴ13が人工知能AIによってシミュレートされた暗殺計画の成功率を示す数字だ。

依頼人が駆使するのは、かつて軍事転用も試みられたAI解析による行動予測。彼らは大量のゴルゴのデータをAIに読み込ませ、最も効果的な抹殺方法を導き出す。

このエピソードが発表された当時、AIはまだ一部の研究機関やハイテク企業のものだった。

にもかかわらず、ゴルゴ13はその可能性と危険性に早くも切り込み、未来の戦争やテロの形を予見していたといえる。

AIは確かに合理的で、ゴルゴを追い詰める。だが、最後の最後で暗殺は失敗する。

その原因は、“人間の意志”だった。突発的な感情、恐怖、判断のズレ――それらが予測不能の要素としてAIの計画を狂わせたのだ。

ゴルゴは言葉少なに、自らの生存を証明する。人間は機械を凌駕する。

計算では測れない“生への執念”が、冷徹な論理を凌ぐという構造は、むしろ今のAI全盛の時代にこそ警鐘として響く。

「シンクロトロンBESSY-1」――科学と狙撃の狭間で

最後の話は、わずか数ページのショートエピソード。だが、短いからこそ凝縮された“ゴルゴらしさ”が光る。

舞台はドイツ・ベルリン。登場するのは「BESSY-1」という、実在の加速器シンクロトロンである。

これは高輝度放射光を発生させる巨大な装置で、物質解析やバイオ研究などに用いられる先端科学の象徴だ。

ここでゴルゴが見せるのは、精密すぎる狙撃。そして、その発想自体が科学と芸術の融合と言えるものだった。照準の微妙なズレを、周囲の物理現象と装置の性質を利用して補正する――もはや超常の領域に達したスナイパーの芸だ。

このエピソードは同時に、読者に「科学とは何か」をさりげなく示している。太陽のような光を地上で再現する技術がある――それを知るだけで、この巻のラストに少しの希望と驚きが生まれる。

歴史を撃ち抜くスナイパー

ゴルゴ13は、単なるアクションヒーローではない。彼は、時に歴史の目撃者であり、時に歴史の執行人である。そしてその姿は、常に無言のまま、世界の裏側を歩き続ける。

137巻の3話は、それぞれがまったく異なるジャンルとテーマを持ちながら、すべてが「今を考える」ための材料となっている。

戦争の愚かさであり、AIさえも限界点、そして科学の可能性、インフィニティ。

そしてそれらを一つのスコープの中に収める、男の揺るぎなさ。

「ゴルゴ13」は常に、時代の先を撃っている・・・